Spotifyはメタデータを代わりに書き換えてはくれません。Apple Musicも同じです。トラックが公開されると、ストアは配信会社から送られた内容をそのまま適用します。修正はアーティストダッシュボードのフォームでは行いません。別の配信として送ります。
Spotify、Apple Music、Amazon Music、YouTube Music、Deezer、TIDALなど、すべてに配信したいレーベルは、ダッシュボードをいくつも運用しているわけではありません。提出するのは一つのリリースです。ロスレスマスター、アートワーク、タイトル、各レコーディングの12文字のISRC、プロダクトのUPC、配信対象地域、発売日。配信会社はその一式を検証し、エンコードして、選択した各ストアへDDEX Electronic Release Notificationを送ります。
ファンアウト、つまり一斉配信こそが製品です。このあと扱うのは、その一式がたどる経路、それを運ぶメッセージの形式、発売日のあともメッセージを出し続ける二つの作業、アップデートとテイクダウンです。
レーベルはどうやってSpotifyで楽曲を配信するのか
独立系レーベルがSpotifyで楽曲を配信するには、配信会社を通します。Spotify自身もそう勧めています。リリースをSpotifyへ届け、そこから生まれるストリーミングのロイヤリティを後で支払うのが配信会社だからです。納品から公開までは最大5営業日かかることがあります。
申請の前に、次の4点を用意してください。
- WAVまたはFLACのロスレスマスター。
- 3000×3000ピクセル以上、RGB、正方形のジャケット画像。宣伝文句、URL、SNSのアカウント名は入れません。
- 各トラックのISRCとリリースのUPC。お持ちでなければ、LabelGridが追加費用なしで両方を提供します。
- 2週間以上先のリリース日。できれば3〜4週間先にすると、審査とSpotify側の処理の両方に余裕が生まれます。
この流れの中で、配信会社にあたるのがLabelGridです。SpotifyのProvider Directoryでは、LabelGridが配信分野のSpotify Preferred Providerとして掲載されています。LabelGridはリリースを審査し、以下で説明するフィードを、選択した他のすべてのストアとあわせてSpotifyへ送り、ストアごとの配信状況を表示します。最初のリリースが公開されたら、アーティストのSpotify for Artistsプロフィールへのアクセスを申請してください。以後は、リリースごとに未発表曲を1曲、リリース日の7日前までに編集部プレイリストへピッチできます。詳しい仕様はヘルプセンターのSpotifyガイドにあります。
一度の入稿は、一つの納品ではない
同じzipをすべてのストアにコピーしても、届いた瞬間に失敗します。デジタルサービスプロバイダー(DSP)ごとに、オーディオ基準も識別子のルールも違い、申告する契約条件もストアごとに変わります。フランス向けの販売可能期間は、日本向けとは異なります。3000ピクセルで有効なアートワークでも、フォルダに放り込んで様子を見るのではなく、メッセージの中でImageリソースとして宣言する必要があります。
配信会社は、権利者とこれらの配信先のあいだに立ちます。レコードレーベルにとって、それは一つのカタログ、一組のISRCとUPC、ストアごとの送信です。LabelGridの配信フローも、この前提で組まれています。配信先を選び(デフォルトはSelect All。ストア単位でチェックを入れる・外すこともできます)、送信すると、各配信先のステータス(Queued、Delivering、Delivered、Live、Error、Scheduled)を追えます。ストアに表示されるのはレーベル名とアーティスト名です。LabelGridが「distributed by LabelGrid」と刻印することはありません。
一斉配信でも、全ストアが同じタイミングで進むわけではありません。ストアによって処理速度は違います。最初の数日で、プラットフォームごとに配信開始がずれるのは通常です。LabelGridが公表している下限は、発売日の少なくとも2週間前の入稿です。より望ましいのは3〜4週間前です。品質レビューとDSP側の処理の両方に、その日数が必要だからです。配信にかかる時間は保証されません。LabelGridの審査には、Solo・Basic・Proプランで最大10営業日、CustomとAPIで最大5営業日かかります。配信後、Apple Musicでの処理には通常1〜3営業日かかります。ほかはまちまちです。
アップロードからストア公開までの6段階
DDEX、IFPI、GS1がこの配線の仕様を公開しています。配信プラットフォームは、それを動かす機械です。
- 入稿:オーディオマスター、カバーアート、リリースのメタデータが、一つのカタログに入ります。
- 識別子とメタデータの確認。各レコーディングにはISRCが、販売対象のプロダクトにはUPCまたはEAN(GS1のGTIN)が必要です。構造、完全性、一意性をすべて満たすまで、組み立ては始まりません。
- トランスコーディングで、ロスレスマスターを各配信先が求めるファイルに変えます。その後、DSP側でも自社の再生品質段階向けに、もう一度トランスコードします。
- DDEX配信では、リリースのメタデータ、リソース参照、契約条件をERNにまとめて送ります。
- 受信確認:DSPがエラーを含むステータスを返すので、送信側はメッセージが届いたことを証明できます。
- 利用報告。売上と再生数は、通常はDDEX Digital Sales Reportとして戻り、ロイヤリティの支払いに流れます。
LabelGrid経由の配信では、ステップ4の前に品質レビューが入ります。無音パディングや権利フラグなど、このままではストアで弾かれるフィードを、ここで止めます。前述のダッシュボードのステータスは、ステップ4と5を運用画面から見たものです。別の標準ではありません。
2つのERN世代、一方は廃止へ
実際に外へ出るメッセージは、DDEX ERN NewReleaseMessageです。DDEXはこれを、レコード会社や配信会社がDSPに対して、何をどのような条件で提供可能にするかを伝える手段だと説明しています。リソース(SoundRecording、Image、Video)は一つのリストに、リリースは別のリストに、契約条件はさらに別のリストに置かれます。それらを結びつけるのが参照です。リソースA1は、リリースR1のオーディオです。ISRCはレコーディングに、UPCはプロダクトに紐づきます。
すべてのDSPが同じ方言を話すなら、それで済みます。実際は違います。最新の公開バージョンはERN 4.3.2です。DDEXは実装者に4.3.xの採用を強く推奨しています。DDEXは2025年3月1日にERN 3のサポートを終了し、Spotifyは2026年4月1日から4.3より古いERNバージョンの受け付けを停止しました。どのERNバージョンを受け付けるかはDSPごとに決まるため、フィードで送るバージョンは今もストアによって変わります。
ERN 4は見た目だけの改訂ではありません。PartyListによって、ミュージシャン、作家、レーベルの情報をファイル全体で繰り返す代わりに、一度だけまとめられます。地域フィールドは、実際に違う箇所だけ繰り返します。10曲入りのアルバムは、11の完全なリリースではなく、1つのReleaseと10の軽量なTrackReleaseコンポジットになります。DisplayArtistName(マーケティング上のブランド名)は、Contributor(役割)とは別に扱われます。2022年12月に公開された4.3アップデートで、イマーシブオーディオのデータ、ユーザー生成の短尺クリップの許諾、アルバムの表示日、DDEXのMEADおよびPIEというエンリッチメント標準へのフックが加わりました。
これらを送るためにDDEXコンソーシアムへ加盟する必要はありません。Implementation Licenceがあれば十分です。LabelGridはERN 3.8.2、4.3.0、4.3.1、4.3.2に対応しており、コンソーシアムには加盟していません。各ストアには、そのストアが受け付けるバージョンが届きます。PurgeReleaseMessageによるテイクダウンを含む送信の仕組みは、DDEX配信ページにあります。
「これで十分」では通らないオーディオ基準
SpotifyはFLACを推奨し、WAVも受け付けます。求められるのは44.1kHz以上で、ネイティブマスターが24bitならその24bitです(より高いビット深度のマスターがない場合のみ16bit)。ネイティブのステレオマスターを、先にダウンサンプリングせずに送るよう指示しています。16bit未満、または44.1kHz未満のファイルはアップコンバートされ、ロスレス再生の対象から外れます。
Apple Digital Mastersが求めるのは、オリジナルの24bit PCMマスターです。アップサンプリングはしないでください。16bitファイルをビットパディングして24bitにすることも、しないでください。Appleのエンコーダーは、その余分な解像度を使います。パディングしたファイルでは、解像度は増えません。
LabelGridがアップロード時に受け付けるのは、WAVまたはFLACのみです。24bitマスターはWAVとして提出する必要があります。16bitを超えるFLACは受け付けません。自動レビューでは、冒頭の無音は5秒、末尾の無音は9秒が上限です。
アップデートとテイクダウン:さらなるメッセージ
ERNは一度きりではありません。メタデータの修正、アートワークの差し替え、配信地域の変更、削除は、いずれも同じ手順に沿ったさらなるメッセージです。確認方法も同じです。Spotifyの言い方は明確です。公開済みリリースのメタデータやアートワークを、自らは編集しません。レーベルまたは配信会社がアップデートフィードを送ります。
識別子に二度目の人生はありません。ISRCはそのレコーディングがある限り紐づいたままで、IFPIのルールでは再利用はできません。2018年12月より後に取引商品へ割り当てられたGTINは再割り当てされないため、更新したプロダクトも同じUPCを保ちます。レコーディング自体が実質的に新しいなら、それは新しいISRCです。Apple上のUPCが誤っていた場合、Appleのパートナー向け資料では、プロダクトを削除して再送する必要があり、Appleがコードを消すことはありません。
テイクダウンは、リリースの取引を止める要請です。DDEXには形式が二つあります。契約条件を省いたNewReleaseMessageと、専用のPurgeReleaseMessageです。配信は止まります。レコーディングに新しいアイデンティティを与えるものではありません。Spotifyでは削除に少なくとも2営業日かかり、トラックは消えるのではなく、グレー表示になり再生できなくなります。
よくある質問
レーベルはどうやってSpotifyで楽曲を配信するのですか。
配信会社を通します。リリースを届け、ストリーミングのロイヤリティも支払うのが配信会社なので、Spotify自身もそう勧めています。レーベルはWAVまたはFLACのロスレスマスター、3000×3000ピクセル以上のジャケット画像、トラックごとのISRCとリリースごとのUPCを用意し、2週間以上前に申請します。LabelGridはSpotify Preferred Providerで、一つのカタログからSpotifyとその他の主要DSPすべてに配信します。
レコードレーベルはどうやって全DSPへ一括で音楽を配信するのですか。
レーベルは配信会社にリリースを一つ入稿します。配信会社は識別子とオーディオを検証したうえで、選択した各ストアが受け付けるバージョンのDDEX ERN NewReleaseMessageを送ります。LabelGridは一つのカタログから、主要な音楽配信サービスすべてに対してこれを行います。ストアごとに処理速度が異なるため、最初の数日で配信開始がずれるのは通常です。
DDEX ERN NewReleaseMessageとは何ですか。
レコード会社や配信会社がデジタルサービスプロバイダーへ送るDDEX標準メッセージです。リリース本体とそのリソース(レコーディング、アートワーク、映像)、そして配信できる時期や地域、条件といった契約条件を含みます。実装にDDEXコンソーシアムへの加盟は不要で、Implementation Licenceがあれば十分です。
4.3があるのに、配信会社がいまだにERN 3.8.2を送るのはなぜですか。
最新の公開バージョンはERN 4.3.2で、DDEXは実装者に4.3.xの採用を推奨しています。DDEXは2025年3月1日にERN 3のサポートを終了し、Spotifyは2026年4月1日から4.3より古いバージョンを受け付けていません。ただし、どのバージョンを受け付けるかはDSPごとに異なります。LabelGridはERN 3.8.2、4.3.0、4.3.1、4.3.2に対応しており、DDEXコンソーシアムには加盟していません。
SpotifyやApple Musicで公開済みのリリースのメタデータを後から変更できますか。
はい。配信会社経由でアップデートを送れば変更できます。Spotifyは自らメタデータやアートワークを編集できないとしており、レーベルまたは配信会社がアップデートフィードを送る必要があります。元のISRCとUPCは、そのレコーディングとプロダクトに紐づいたままです。テイクダウンは別のDDEXメッセージで、契約条件を省いたNewReleaseMessage、またはPurgeReleaseMessageとして送られます。Spotifyではテイクダウンに少なくとも2営業日かかり、トラックは消えるのではなくグレー表示になります。
レーベルはリリースをどのくらい前に入稿すべきですか。
LabelGridが公表している下限は、リリース日の少なくとも2週間前で、3〜4週間前が理想的です。LabelGridの審査には、Solo・Basic・Proプランで最大10営業日、CustomとAPIで最大5営業日かかります。配信後、Apple Musicでの処理には通常1〜3営業日かかり、リリース日が先の作品はその日まで公開されません。他のプラットフォームは所要日数が異なり、配信にかかる時間は保証されません。承認後にリリース日を変えると、リリースはDraft(下書き)に戻り、再承認と再配信が必要です。
はじめ方
app.labelgrid.comでアカウントを作成します。新規のアーティスト登録とレーベル登録には、7日間の無料トライアルが付きます。その際にカード情報を入力しますが、この7日間は請求されません。トライアル中にカタログの操作を一通り試せます。ただし、有料プランに入ってKYCが完了するまで、配信はできません。LabelGridはSpotify Preferred Providerとしてdelivery-platformカテゴリーに掲載されており、ここまで説明してきた入稿経路と同じものです。
リリースを作成し、ストアを外す理由がなければSelect Allのまま、少なくとも2週間前には送ってください。手順は配信ヘルプの概要ページに、カレンダーはリードタイムのページにあります。ERNの送信そのものは、上記のDDEX配信ページで説明しています。